2022/03/04 10:53

今日は誰を温めよう。

レンジで3分。あとは肩に乗せるだけ。

Bさん<37歳、コーヒー屋オーナー、女性>


もうすぐ春とはいえ、まだまだ外は寒い。

換気のためにドアを開け放ってお店のオープン準備をする。


今日もアルバイトの子はレジ前で寒そうにしている。

やれやれ、体を冷やすなってお母さんから教わらなかったのか?

そういう私はすっかり歳を取った。天気予報を見て服を決めるようになったし、裏側があったか起毛加工のジーンズを平気で履くようになった。こんなのもっさり見えるから絶対履かなかったのに、もう寒さには勝てないのだ。首筋だって簡単には露出しない。今日もカシミアのストールをぐるぐる巻きにして出勤した。


レンジにボタにカルスチームピローを入れて3分、ほかほかのピローをアルバイトの子の肩に乗せる。肩首から伝わる蒸気と熱で全身ぽかぽかしてくる。まるで即席風呂だ。これで冷え切ったこの子も30分はあったかいはず。

「あったかい!それにいい匂いですね!」

そう言ってにっこり。あぁ可愛い。大事にされるのがまだ当たり前の若い子特有の可愛さ。

私はお母さんではないけど、この子を温めたいと思ってしまった。かつての自分を見たのかもしれない。ということはいつかこの子も誰かを温めるだろう。


こんなふうにスチームピローは自分のため以外に使うことも多い。でもみんな帰ったその後は、誰もいないお店で一人スチームピロータイムをするのだ。目を閉じて、何も考えずに、「お疲れ様」とつぶやきながら。